誇りと野心、そして心の闇
これが
出雲の阿国 に登場する三九郎(堺雅人)の本質ではないかと思う。
「文・堺雅人」を読んでMHK金曜時代劇「出雲の阿国」の三九郎を知った。
堺さんはその中で「気むづかしい役であまり笑わない。」と述べている。
しかし、総髪で派手な衣装を身につけた三九郎は
華やいだ雰囲気で、鬱屈しているように見えなかった。
それは大違いという事を後になって思い知らされるが。
とにかく「出雲の阿国」を見てみたい
そう思ってTSUTAYAで探してみたけれど
大阪市内どの店舗にも「出雲の阿国」はなかった。
堺さんファンの友人は「三九郎が余りにもカッコいいので是非!」と仰る。
それを聞いて諦めるわけにはいかない。
レンタルは止めてDVDBOXを買ってしまった
NHK金曜時代劇「出雲の阿国」は2006年1月〜2月、全6回放送。
ストーリーは下記の通り。
1588年(天正16年)1月、大坂の天満宮は神事で賑わっていた。
出雲の国から出稼ぎにきた百姓の娘たちの一座の1人、
阿国(菊川怜)は大勢の人々の中で酔うように踊っている。
その阿国を見物客に交じり注視するのは大村由己梅庵(織本順吉)
関白秀吉の御家来衆である梅庵は
阿国たちを大事な客をもてなす余興として屋敷に召し抱える。
1ヶ月後、阿国たちは出雲大社の巫女の踊りを
梅庵の客人の前で披露する事になった。
華やかな衣装をつけた阿国たちが現れ、唄い踊り出す。
その時、一座にはない鼓の音が聞こえる。
鼓を打っていたのは三九郎(堺雅人)
梅庵に世話になっている三九郎が屋敷を訪れ
偶然見た阿国たちの踊りに駆られて
思わず鼓を打ち鳴らしたのだ
このドラマの中で「傾く(かぶく)」を連呼しているが
「異様な身なりをする人」という意味がある。
派手な衣装や一風変わった姿を好んだり
常軌を逸脱した行動に走る者たちの事を「かぶき者」と言った。
斬新な動きや派手な装いを取り入れた
独特な「かぶき踊り」で阿国は一世を風靡した。
菊川怜扮する阿国は想像していたより良かったが
何よりもあらゆる想像を超えていたのは三九郎(堺雅人)であった。
「クライマーズ・ハイ」の佐山のような相手を射抜くような鋭い眼差しや
「大奥」有功、右衛門左を彷彿させる美しい所作に心奪われたが
特筆すべきは匂い立つような色気だ。
昔、演劇雑誌で「役者の色気」について読んだ事があり
色気があるといえば劇団☆新感線
「髑髏城の七人(1997年)」の捨之介(古田新太)を思い出す。
けれども私は役者の色気がどういう物か分からなかった。
三九郎が阿国に所作を仕込む場面で「腰を入れるのじゃ。」
と言うのを見た途端、役者の色気とはこのような物か
と衝撃が走った。
役者の色気もさることながら
それ以上に凄いのは
憎悪に満ちた形相である。
三九郎は天下様(豊臣秀吉)
に認められたいと能の一座を飛び出した
野心家で、秀吉の目に留まるようにと
通り道の五条大橋の袂で
阿国たちに舞を踊らせるが
期待に反して秀吉の不興を買う。
その一件が秀吉の御家来衆である
梅庵の耳に入り、三九郎は
主従の縁を切られてしまうが
それは天下様に認められ、世に出るという望みを絶たれることだった。
梅庵に罵られて足蹴にされた三九郎。
野心を打ち砕かれ、誇りを傷つけられた時の憎しみが籠もった顔は
怨念が燃え上がり青白い炎で包まれているようだった。
他の役で見られる菩薩の笑顔はどこへやら
夜叉の如く凄まじい三九郎の表情を見た時
背筋がゾッとしたのと同時に堺さんの役者としての凄さを改めて知った。
どの役でも見た事がない、人相まで変わってしまった憎しみに溢れた顔。
「ひまわりと子犬の7日間」で、ひまわりの怒った顔が
CGだったのと同じく、三九郎のそれもCGなんだろうか
冗談はともかく、梅庵を呪った三九郎は暗黒面に落ちてしまった。
野心が強すぎると身を滅ぼす。
阿国と別れた後、三九郎は心の闇を背負い何処へ行ったのだろう。