その夜の侍
監督:赤堀雅秋
出演:堺雅人、山田孝之、綾野剛、新井浩文、高橋努
田口トモロヲ、坂井真紀、安藤サクラ、谷村美月、山田キヌヲ
上演時間 119分
● ストーリー
小さな鉄工所を経営する中村健一(堺雅人)は
5年前、最愛の妻久子(坂井真紀)を
トラック運転手の木島宏(山田孝之)によってひき逃げされた。
5年経っても死んだ妻の思い出から抜け出せず
留守番電話に遺された妻の声を延々聴きながら
糖尿病気味にも関わらずプリンを食べ続けている。
久子の兄で中学校教員の青木(新井浩文)は
中村に新しい人生を歩んで欲しいと同僚の川村(山田キヌヲ)と
見合いの席を設けるが、中村はそれを拒絶する。
久子をひき逃げした犯人の木島は服役後、ひき逃げトラックに
同乗していた友人、小林(綾野剛)の家に転がり込んでいた。
そんな木島の元に1ヶ月前から「お前を殺して俺も死ぬ。決行まで後X日」
という脅迫状が連日執拗に送られてきていた。
木島から脅迫状の事を知らされた義弟の青木は
脅迫状を送っているのは中村と察し
復讐を止めさせようとするが、中村を前にすると何も言えない。
復讐の決行日が数日と迫る中
中村は仕事の合間に包丁を忍ばせ、執拗に木島を付け狙っていた。
決行前夜、中村はラブホテルでホテトル嬢のミカ(安藤サクラ)と過ごす。
一方、木島は中村の復讐を止めされない青木に腹を立て
生き埋めにしようとする。
決行当日、いても立ってもいられない木島は外に飛び出し
台風で激しい雨が降るグラウンドまでやって来る。
そして木島の後を追い掛けてきた中村は
● レビュー
小さな鉄工所の経営者・中村(堺雅人)は糖尿の気があるにも関わらず
仕事を抜け出してはプッチンプリンをむさぼり食う。
妻が亡くなった後も食べ続ける。
妻が残した留守番電話を何度も聞きながら復讐心を燃やす。
おまけに妻のブラジャーを肌身離さず持ち歩いている。
決行前夜、ホテトル嬢の前で
ポテトチップスの袋が開かないからと奇声を上げる。
中村の奇行をあげつらってみれば何とも薄気味悪い人物だ。
妻が殺されて気がおかしくなり、仕事を放棄したのではないか
従業員は一体どうなるんだ!?といらぬ心配をしながら見ていた。
しかし中村は仕事を放棄せず、従業員たちは彼の身を案じている。
義弟の青木は中村に幸せになって欲しいとあれこれ世話を焼く。
中村の脅迫を止められず、木島(山田孝之)に半殺しの目に遭わされても。
これらをかんがみれば中村は廻りの人たちに
愛されているのだと思い、私は何故かホッとした。
平凡ながら幸せだった(と思う)中村は
木島によって不幸のどん底に突き落とされる。
中村に対する木島も強烈なキャラクターの持ち主だ。
中村の妻を轢いた後、警察に通告せず
何事もなかったかのように平然としていたり
ひき逃げを職場に密告した同僚の星をリンチに遭わせたりと
弱者には強い卑怯な悪党である。
ところが不思議なのは殺されそうになった星や
ひき逃げの時に同乗していた小林も木島から逃げようとはしない。
木島そして彼の廻りに集まってくる人間は
言いようのない孤独を抱いている。
妻を亡くした中村もまたしかり。
この作品は哀しみに満ちた孤独を埋めようと
懸命になっている姿を描いているのだろうか?
中村と木島が土砂降りの中、泥まみれになりながら対決した後
中村は木島に向かって「たわいもない話をしたいんだ。」と言う。
妻をひき逃げした憎むべき相手に対して。
たわいもない会話が出来る日常が幸せと言いたいのか?
最後の場面で中村が妻の留守録を消去した後
プリンを頭に乗せグチャグチャと混ぜる場面は
過去との決別を意味しているのか?
どのように解釈して良いのやら、これまた私には分からない。
この物語は舞台の戯曲を映画化したものだ。
それにありがちな幾通りもの解釈があるのだろう。
良くも悪くも元々は舞台作品だという事を実感した映画だった。
(長くなりましたが、堺さんに対する感想はこの後で。)